大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所 昭和30年(ワ)76号 判決

原告 佐々木睦子

被告 三井生命保険相互会社

主文

被告は原告に対し金五十万円及びこれに対する昭和二十九年十二月十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金五十万円及びこれに対する昭和二十九年十二月十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、原告の夫訴外佐々木吉彦は昭和二十九年五月三日被告会社との間に、被保険者を右吉彦、保険金受取人を右吉彦、同人死亡の場合は原告、普通保険金五十万円、傷害特約保険金五十万円、保険料普通及び傷害特約を併せて毎月金二千三百五十円づゝ月掛二十年満期保険期間の始期同年五月三日なる有診査の傷害特約利源別配当付養老保険契約を締結した。そして右吉彦は右約旨に基づき被告会社に対し約定保険料金を支払つておつたところ、たまたま昭和二十九年七月四日オートバイを運転し、国有鉄道羽越線「西目駅」より「平沢駅」に向け、国道を疾走中同日午前十一時頃「両前寺踏切」を横断しようとした際、その附近が見透しのきかない個所であつたため、オートバイの車輪が折柄背後から進行してきた上り五一六列車の機関車に触れ、そのため吉彦はオートバイから放り出され、頭部その他に負傷した結果、同日午後二時頃遂に死亡するに至つた。

よつて、原告は被告会社に対し前記保険契約に基づき普通保険金五十万円及び傷害特約保険金五十万円の各支払を請求したところ、被告会社は普通保険金の支払をしただけで傷害特約保険金については支払を拒否して応じないから、右特約傷害保険金五十万円及びこれに対する右支払請求後である昭和二十九年十二月十五日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶと述べ、被告の抗弁事実に対し、吉彦の右事故死亡は次のような事情に因るものであつて、同人の重大な過失に基づくものではない。すなわち、

(一)  西目駅から事故現場である両前寺踏切迄の国道は同踏切手前約一粁の間は、鉄道線路と平行しているが、右踏切手前約五百米の間は曲折多く且つ高低著しく、又同所附近国道と線路との間には、小丘陵があつて相互の視界がさえぎられているし、又右踏切は線路を斜めに横断している等の事情から事故現場附近は見透しが悪く、右吉彦の事故の前後にも自動車の衝突事故があつたほどで、本来なら右踏切には国鉄において開閉機を設ける必要があるのに、事故当時の現場の踏切標識は木製小型のもので接近しなければ認識しにくいものであつた上、吉彦は土地不案内のため事前に右踏切を認識できなかつたためであること。

(二)  仮に吉彦が事前に踏切を認識していたとしても、自車の爆音のため右列車の進行音響や警笛に気づかず、これに加えて右踏切の直前で反対方向より右踏切を通過してきたバスを見たので列車は通過しないものと誤信したがためであること。

(三)  又右列車が右踏切の三十米手前で非常警笛を吹鳴した際、吉彦が列車進行を確知したとしても、同人は自車の急ブレーキをかけても惰勢進行による接衝の恐れありと考えたか、又は彼我の速度間隔の誤算により背後から来た右列車との間隔の優位を保持できるものと誤信して進行したものであるか、或は既に優位を保持できないと気付いたとしても、自車の制動機故障により停車できなかつたか、いずれかによるものであること。

以上のような事情から前示事故が生じたのであつて、該事故は吉彦の重大な過失に基因するものとはいえない。或は右非常警笛により列車の進行を知覚した際、吉彦が自車を道側の水田に突込み避譲せば右のような死の事故は生じなかつたかも知れないが、咄嗟の場合この方法を選ぶのは高速度機関を駆使する者の本能としてできないのであり、これを吉彦に求めるのは無理である。又制限速度違反の点については、市街地ではともかく田舎道をオートバイでドライブ中仮に六十粁以上の速度を出したとしても、通常なされているものであるし、又踏切の手前約三百米の地点から踏切迄の間は一旦下り勾配になり、中途で約四十分の一の上り勾配となつている関係上吉彦は運転者一般の例にならい下り勾配の加速度を利用して上り勾配を乗り切ろうとしたため、高速度を出したのであつて、これを以て吉彦の重過失なりとはいえない。

以上の次第であつて、前示事故が被保険者である吉彦の過失に基づいて発生した事故であるとするも、右は重大な過失とはいえないと述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中、昭和二十九年五月三日原告の亡失訴外佐々木吉彦と被告会社との間に原告主張どおりの保険契約の成立をしたこと、右吉彦が原告主張の日時、その主張の場所において、その主張のような事故により死亡したこと、被告会社が昭和二十九年八月十四日原告に対し、右事故につき右保険契約に基づく普通保険金五十万円を支払つたが、傷害特約保険金五十万円の支払を拒絶したことはいずれもこれを認めると述べ、

抗弁として、右事故は被保険者である吉彦の重大な過失に基づくものであるから、保険約款所定の免責条項に該当し、被告会社に支払の義務はない。すなわち、右保険契約における傷害特約の約款第五条には保険事故が「被保険者の重大な過失に基づくとき」は被告会社は特約保険金を支払わない旨規定しているが、右吉彦の死亡は次の理由により同人の重大な過失に基づくものである。すなわち、吉彦は右事故当日友人である訴外栗沢了、同樋口昭市等とともに秋田市より象潟観光ホテルまで軽自動二輪車でドライブし、当初は右友人二名が、同年五月運転免許状の下付を受けたばかりで技術の未熟な吉彦を中にはさんで進行したところ、途中羽越線本荘市を通過した松原で小憩した後は吉彦が先頭に出、同日午前十一時三十七分頃時速六十粁で西目、羽後平沢間の右両前寺踏切を通過せんとし、折柄西目駅より平沢駅に向け進行して来た国鉄上り五一六列車にはね飛ばされて右事故となつたのであるが、該事故は、

(一)  西目駅より右踏切に至る国道の同踏切手前約二粁の間の情況は同踏切四、五百米手前に小丘があつて国鉄線路と国道とが隔たつている外は、線路と国道とは平行しており、その間は大部分が水田で見透しがきき、右小丘の出口から約三百米前方に右踏切を確知し得る情況であるばかりでなく、前記五一六列車の機関士紀伊栄太郎が右踏切手前約四百米の地点において汽笛吹鳴標に従つて汽笛を吹鳴し、その直後右踏切約三十米の手前でも吉彦の右疾走を見て非常汽笛を吹鳴したのであるから、吉彦は右列車を覚知していた筈であるのに、同人が列車の進行、吹鳴汽笛を無視し、且つ後記のように交通法規をも無視して列車を待避しようとせず、却てこれと競走し右列車通過前に右踏切を渡ろうとしたこと。

(二)  仮に吉彦が右列車の進行を知らなかつたとしても、右踏切の約一米手前には踏切の標示板が立つており、同所附近は右のとおり見透しのきく場所であり、約三百米手前から右踏切を確認し得た筈であるから、踏切通過の措置を考慮しながら進行すべきであるに拘らず、同人が法を無視し、道路交通取締法第十条、同法施行規則第十五条所定の制限最高速度四十粁を遙かに超える六十粁ないし七十粁の速度を以て操縦を継続し、しかも右法律第十五条の要求する踏切を安全に通過できるかどうかを確認するための踏切一時停車をもしないで右踏切を通過せんとしたこと。

(三)  のみならず吉彦は前示の如く自動二輪車の免許状の交付を受けてから僅か二ケ月余りで技量が未熟であつたことも原因であり、かてて加えて若し制限速度内で運行せば、たとえ事前に右踏切を確知しなかつたとしても急停車等の措置により右事故を廻避し得たのに拘らず、前示のように吉彦の操縦スピードは右非常汽笛を覚知した個所からでは既に自車に急ブレーキをかけても衝突は免れない程の制限速度を無視した高速度運行をしたこと。以上の様な吉彦の所為から生じたものであつて、同人の右所為はおよそ自動二輪車を運転する者が払うべき注意義務を著しく怠つた重大な過失に基因するものというべきであり、或はむしろ未必の故意による事故とさえ言い得る程度のものである。

おもうに、生命保険における免責事由としての「重大な過失」については直接の明文法規がないから前記免責約款に所謂重大な過失の意義については、同約款の全内容よりして、結局商法の損害保険の規定に準拠して解釈する外はないというべきところ、損害保険に関する商法第六百四十一条後段において、「保険契約者若しくは被保険者の悪意若しくは重大な過失によりて生じたる損害は保険者之を顛補する責に任ぜず」と規定したのは保険は保険者、保険契約者、被保険者のいずれにとつても、発生の不確定な事故によつて生ずる損害を顛補することを本質とするものであるから、保険契約者若しくは被保険者が自ら招いた損害は保険者に顛補の責がないのは当然であるとしたことによるものと解すべきである。これを言葉を換えてみれば、被保険者には保険事故を自ら招来しない義務があるということになるのであつて、この義務は成文法の規定によりはじめて生ずる義務でなく、より本質的な基本的義務であるというべく、従つて保険事故が発生した場合において保険者の免責事由としての被保険者に重大な過失ありや否やの判断は被保険者にこの基本的義務に違反した程度が重大なりや否やによりて判断せらるべきである。ところで、吉彦は前示のように法規に定める制限速度時速四十粁をはるかに超える六十粁ないし七十粁で疾走したものであるが、交通事故の大部分は制限速度違反に基因するものであるから、速度制限の規定は事故防止のための重要な規定であり、これが違反は、事故発生を自ら招来すべきでないとの傷害保険における前記基本的義務の重大な違反となるのである。又踏切における交通事故は、致命的なものが多く、これを予防するため踏切においては線路上に列車が来るのを現認するや否やに拘らず、一旦停止し危険のないことを確認した上、通過するように定めたのであるから、これを無視することは傷害保険の基本的義務の重大な違反となるものであつて、吉彦の犯した前示制限速度の違反及び踏切一時停車の違反はおのおの独立して重大な義務違反となり、従つておのおの独立して重大な過失となるものというべきである。されば、吉彦が前示事故を招いた原因には、右の外前示掲記の所為があるのであるから、同人は重大な過失により被保険者としての基本的義務に違反し、因つて前示事故を生ぜしめたものであること明かである。

されば前示免責約款に基づき被告会社には傷害特約保険金の支払義務なく、原告の本訴請求には応じられないと述べた。〈立証省略〉

理由

原告の夫訴外佐々木吉彦と被告会社との間に昭和二十九年五月三日被保険者を右吉彦、保険金を普通保険金及び傷害特約保険金とも各金五十万円、保険料を両者を併せ毎月金二千三百五十円づゝ月掛保険金受取人を被保険者若し被保険者死亡の場合は原告とする満期二十年、保険期間の始期右同日なる有診査の傷害特約、利源別配当付養老保険契約を締結したこと、右吉彦が右約旨に基づき約定保険料金を支払つておつたこと、右吉彦が同年七月四日午前十一時頃オートバイを運転し、国有鉄道羽越線西目駅と羽後平沢駅間の線路踏切を平沢駅に向け、横断せんとした際、オートバイの車輪が平沢駅向け進行して来た上り五一六列車の機関車に触れてオートバイより放り出されたため頭部その他に負傷し、よつて遂に同日午後二時頃死亡したこと、右事故により原告は被告会社に対し前示普通保険金及び傷害特約保険金各五十万円の請求をしたところ、被告会社は普通保険金五十万円の支払をしたけれども、傷害特約保険金五十万円については支払を拒否して応じないこと、以上の点は当事者間に争いがない。

被告会社は、吉彦の右死亡事故は同人の重大な過夫に基づく旨種々主張しているから、以下これ等の点につき順次判断する。

先ず事故現場及びその附近の地形情況を見るに、検証の結果によると、西目駅寄りより両前寺踏切向け進むと、両前寺踏切手前四百米の国鉄線路上に両前寺踏切汽笛吹鳴標があり、該吹鳴標手前約五百米余の間は国鉄線路より約四尺の低さでその左側に相接して国道が平行し、両者の間に視野をさえぎる障害物はなく、そして右吹鳴標附近において小丘を二条に切り通し、その一を国鉄線路、他の一を国道とし、同所において国鉄線路は緩く右折し、且つ稍々下り勾配となつて直進して両前寺踏切を通過し、国道は稍々左折して直ちに緩い上り勾配となりながら次第に右に彎曲し、約百米にして下り勾配となり漸次勾配の度を増して左右に屈曲して再度国鉄線路に近接し、且つ約四十分の一の上り勾配に変り百十米余にして両前寺踏切に達し、国鉄線路を左斜めによぎつて平沢町方面に至るものであつて、右切通しの国鉄線路と国道との間に残された小丘部分は高さ約七米、山裾両端の巾約百五十米の小山となつており、以上の現場附近は、市街地より離れ人家もなく、車馬の交通量も少い閑そな街道となつている地形情況であることが認められる。

次に事故発生までの吉彦の運行情況を見るに、成立に争のない乙第四号証の五、証人紀伊栄太郎、栗沢了、樋口昭市、高橋昭二の各証言及び検証の結果を綜合すると、吉彦は友人二名と語らい、象潟観光ホテル迄のドライブを計画し、前同日午前九時半頃、軽自動二輪車を操縦して秋田市を出発し、約二時間かかつて午前十一時二十七分頃両前寺踏切に差しかかつたものであるところ、秋田市出発当初は友人の間に狭まれて運行したが、途中小憩後は先頭に立ち、時速六十粁内外で疾走し、殊に両前寺踏切手前百米辺では時速六十粁を超える速度で疾走し踏切一時停車をすることなく、両前寺踏切を通過しようとしたものであるところ、他方前示五一六列車が追走してきて両前寺踏切手前四百米の前示踏切吹鳴標地点において所定の踏切警告の汽笛を吹鳴し時速約五十七粁八百米を以て進行するうち前示吉彦が軽自動二輪車を操縦し両前示踏切手前約五十二米の国道上を疾走するのを発見したので、右列車の機関士は同踏切手前約三十米の地点において非常警笛を吹鳴すると同時に急停車措置を講じたけれども、間に合わず、右踏切において同列車の機関車前部が踏切を通過し終ろうとする吉彦の軽自動二輪車の後部に接触し、吉彦は軽自動二輪車と共に同踏切より平沢駅寄り約十二、三米の国鉄線路右側に接する水田中にはねとばされ、右軽自動二輪車は後部車輪が屈曲し、タイヤが外れる等主として後部に損傷を受けたことを認めることができる。

そこで進んで、吉彦が列車を覚知した時期を考察するに、以上認定の両前寺踏切附近の地形状況及び列車と吉彦の進行状況並びに右採用の各証拠を綜合すると、吉彦は両前寺踏切手前四百米の踏切汽笛吹鳴標辺迄は右五一六列車より相当距離を隔てて先行していたため、右列車の追走してくるのを全然予知せず、又右吹鳴標から切通し道路を迂廻している間に漸次列車に追いつかれたにも拘らず、前示の如く約二時間も搭乗してきたため聴覚にも稍々変調を生じ、且つは自車の爆音と切通し小山とに前示踏切警告の列車汽笛もさえぎられて列車の接近せるを察知し得なかつたのみならず、たまたま反対方向より両前寺踏切を通過して来るバスを認めた等のことから、同踏切通過を安全と誤信し、そのまま下り勾配を利用して速度を加え上り勾配を乗ろうとして踏切手前五十二米附近に差しかかつた際突如右列車の前示非常警笛により、はじめて列車の追走し来るのを覚知したが、時既に踏切に近接したので、列車避譲の措置を考慮する遑もなく右踏切に突入してしまつたものであることを推認するに難くない。

以上諸認定の趣旨に反する乙第三号証の五、六、第四号証の七、八の記載部分は採用せず、他に前示認定を左右するに足る確証はない。

以上認定のとおりだとすると、たとえ吉彦が軽自動二輪車による遠乗経験が少ないのに制限速度に反し時速六十粁を超える速度で運行し、且つ踏切一時停車の措置をも採らず、踏切を通過しようとしたとしても、他面吉彦の運行した国道は市街地を離れた交通量の少い所であり、且つ踏切手前四百米迄は約五百米の間国鉄線路に平行して両者の間に視野をさえぎる障害物もなく、列車の運行も容易に予知し得る地形状況下において、列車より相当距離を先行していたため列車の追走して来るのを全然予知せず、又右踏切手前四百米附近から約百二十米の切通し道路を迂廻しているうち列車に接近されたにも拘らず、自車の爆音と切通し小山にさえぎられて警笛を聴き洩らし、列車の接近を知覚し得なかつたのみならず、反対方向より踏切を横断して来るバスを認めたことなどから踏切通過を安全と思料したような本件の場合においては、被保険者である吉彦に過失ありといい得ても、本件傷害特約保険約款第五条のいわゆる「重大な過失」ありといえないというを相当とする。被告は時速制限に違反したこと、踏切一時停車に違反したことを以て、これ等違反は保険契約における本質的基本的義務に違反し各独立して重大な過失となる旨主張するけれども、もし右基本的義務違反を以て被保険者が自ら招いた事故に基いて保険金を請求することが信義に反し又は公の秩序善良の風俗に反し、延いては保険制度の目的に反するような義務違反の趣旨なりとせば、吉彦の前示交通取締法規違反は都鄙における現在の交通の実状では、直ちに基本的義務違反ということはできないし、又若し基本的義務違反を以て保険経営の技術面から要請される義務違反の趣旨なりとせば、保険者の一方的に決定された約款に基いてのみ契約をなし得るに過ぎない保険契約のような附合契約の場合においては、一般人が容易に理解し得るよう規定するを望ましいものというべく、保険契約における免責条項においては殊更に条項の概念の明確は望ましいものというべきを以て、本件免責条項としての「重大な過失」という如き抽象的条項の解釈に際しては附合契約における一般人の理解という点を考慮してなさるべきものと考える。しかして、右の点から理解すれば、被保険者の重大な過失とは、保険者に免責を与えることが当然であると一般人が認め得るような被保険者の過失と解すべきであり、そうだとすると、若し吉彦の右交通取締法規違反を以て被保険者に重大な過失ありとするならば都鄙における交通の現状では、一般人は傷害特約保険契約の締結をちゆうちよするであろうし、延いては保険経営の技術面においても支障を来たす結果となるを以て保険経営の技術面からの要請される義務違反として重大な過失ありともいえない。

以上のとおり吉彦の死亡は同人の重大な過失による事故に基づくものといえないから、原告が被告に対し前示保険契約に基づく傷害特約保険金五十万円及びこれに対する右支払請求の翌日であること弁論の全趣旨から窺知し得る昭和二十九年十二月十五日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は正当として認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小嶋彌作 藤井一雄 阿部秀男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例